後悔
酷いことをしてしまった。
後悔してる。
勝手に手が動いてしまった。
舌にガーゼを挟んで、荒れた唇にワセリンを塗り、
その上から口が開かないようにテープで止めて、
ベッドに横たわる私を見下ろしたあの人の顔に、
ほんのりと浮かんだ笑顔が、私を滑稽だと、異常だと、
おかしな子だと嘲笑うように見えて、気付いたら頬を叩いていた。
乾いた音がした。
それを聞いてから自分がしたことに気付いて、
叩いた方の手をもう片方の手で握りしめたけど、もう遅かった。
なぜこんなことをしたのかと問うあの人に返す言葉もなく、
長い長い沈黙のうちにあの人の顔はどんどん恐くなった。
絞り出すように「変な子を見るみたいに見るから」と言ったら、
あの人は無言で電気を消した。
あの人にそんなつもりがないことはわかってる。
もしくはその感情に気づいていないか、
気づいていないふりをしていることはわかってる。
だけど、私の目にはそう見えてしまって、手がそれに反応した。
後悔してももう遅いけれど、後悔してる。
最近の私は以前よりもなお異常だ。
それは私も自覚しているけれど、自覚しているからこそたちが悪い。
自覚したところでどうにかできるわけでもなく、
異常であることとどうにもできないことのダブルパンチで、
自己嫌悪と後悔で負のスパイラルに飲み込まれるだけだからだ。
何もせずに手をこまねいているわけではない。
夕方に落ち込むことがわかってから、
少し気分が落ちたと思ったら薬を飲むようにしてる。
以前精神科でもらったもので、
効果が出るまでの時間は短いけれど、代わりに早く切れる。
今日は少し飲むのが早すぎたらしい。
少し前までは靄がかかったみたいにすべてが丸くて、
傷つくだとか恐怖するなんてことなかったのに、
ついさっき、気付いたら手が動いていた。
あの人と同じくらい私も驚いた。
ああ、どうしよう。
何てことをしてしまったんだろう。
傷付けただろうな。
明日、どんな顔をしたらいいんだ。
少し前まで普通に、楽しく話してたのに。
どうしてこうなったんだろう。
目を覚ましたくない