名状しがたい日記のようなもの

適当なことを適当に書く感じのあれです(愚痴多め)

私はあんたたちを忘れてやる

そこは布団の中。

私のくるまる毛布の上に被せるようにして、

もう一枚の布団が被せられて、

そこから手が伸びてくる。

湿った、柔らかい手が私の身体を這う。

私のお腹を撫でて上に向かっていき、胸を弄ぶ。

湿り気とその温度がひどく不快だ。

そのうち私の毛布ははだけてしまったようで、

いつのまにかどこにあるかわからなくなっていた。

胸を弄ぶのとは別の手が、私の下半身に触れる。

それが嫌で身を捩ると、それをものともせず、

軽々と身体の向きを変えさせられてしまった。

荒くなった息が聞こえる。

薄暗い視界の中、私より色が黒くて、

私とそんなに身長が変わらない、

引き締まった男の人の身体が見えた。

私はそれを知っている。

必死に身を捩って逃げようともがくけれど、

それは大して意味をなさず、

相手の下半身が私の下半身に割り入ろうとする。

ああ、逃げられない。

このままじゃ

そう思ったとき目が覚めた。

そう、夢。

 

ほっとすると同時に困惑した。

あまりにもリアルな夢のせいで、

私のかけているタオルケットが、

夢の中の布団のように感じられたから。

恐ろしかった。

私はまだ逃れられていないのかと思った。

もう、忘れたつもりでいたのに。

まるで忘れるなんて許さない、

絶対に逃すものか、と言われたようだった。

 

あれは、兄だ。

私の三つ上の、兄。

ことあるごとに私の身体に触れた兄。

兄弟の中で唯一浅黒い肌をしていて、

身長は家系では珍しく小さい方だったから、

私と大して変わらなかった。

代わりにスポーツをやっていたせいで、

身体は引き締まっていて、

生まれつき、いつも手が湿っていた。

彼は家族の中で唯一の女の性を持つ私を、

身近であるからか妹ではなく女として見ていた。

普段は優しくて温厚な兄が、夜は表情を変え、

私の布団にひっそりと近付いて、

手を伸ばして私に触れてくる。

恐ろしかった。

理解できなかった。

 

その兄も私より早く家を抜け出して結婚し、

私も家を出たし、連絡も取っていない。

兄のことを思い出すことなんてなかった。

今朝までは。

 

あの家は、歪みきっていた。

父は兄二人に暴力を振るい、

次兄はその鬱憤を私や長兄に当たり散らす。

次兄に怒鳴られ殴られ蹴られ首を絞められる私を、

いつも温厚な長兄が庇ってくれたけれど、

夜の長兄は知らない男のようで恐ろしかった。

 

三年前、やっとの思いで逃げ出したのだ。

もう二度と関わらないと心に決めて。

もう、何の関係もないのだと言い聞かせて。

早く忘れてしまおうと思っていたし、

思い出すこともほとんどなくなっていた。

思い出すのは穏やかな思い出だけに、

やっとなってきたところだったのに。

今朝の夢で全てが打ち砕かれた気分になった。

 

私の努力など無駄だったんだ。

忘れようなんて無理だったんだ。

逃げられないんだ。

私、ずっと怯えてなきゃいけないんだ。

そう、思ってしまった。

 

最近過去最低を更新し続ける体重のせいで、

私は一体どんな体型になりたいのか、

どんな体型だったら納得できるのか、

理想の体になれないなら、

私の身体を私のものだと思わずに、

女性として美しいと思える身体にすれば、

少しは心が収まるんだろうかと、

ずっと考えていたからこんな夢を見たのか。

それなら私は一体どうしたらいいんだろう。

夢の中の私は間違いなく女だった。

そしてそれは、夢の中でも、

現に戻ってからも、間違いなく苦痛だった。

どうしろと、言うんだ。

一体、どうしたらいい。

 

最悪の目覚めだった。

 

出来ることなら全部忘れたい。

家族のことなんて忘れてしまいたい。

だけど、それはきっと難しいだろう。

だからせめて、今日の夢だけでも忘れたい。

 

これは、忘れる為に書いたもの。

私の嫌悪感を、恐怖を、憤りを、

やるせなさを捨てる為に書いたもの。

だからきっと忘れられる。

忘れてやる。