名状しがたい日記のようなもの

適当なことを適当に書く感じのあれです(愚痴多め)

死にたい僕と殺したい彼の利害の一致

ずっと死にたかった、

だけど死ねなかった僕の前に、彼が現れた。

そして彼は言った。

『私が貴方を殺してあげましょう』と。

 

僕は、ずっと死にたかった。

死にたいと思いながら生き続けてきた。

死のうとしたことだって何度もあるし、

誰かに殺してもらおうとしたことも何度もある。

だけど僕は死ねなかった。

だから僕は今も生きている。

そんな僕に向かって彼は言った。

『大丈夫、私が貴方を殺してあげます』と。

 

僕はそう簡単には信じなかった。

どうせ今までの奴らと同じだと思った。

希死念慮がある奴は扱いやすいと思って、

最後だからって言って金を使わせて、

身体を重ねさせて、

結局怖気付いて何だかんだ御託を並べて殺さない。

どうせそんなもんだろ、と僕は思っていた。

だから僕は言った。

 

それ、本気なの?

だとしたら馬鹿じゃない?

僕はたいして金を持ってないし、

僕個人の住まいも持ってないよ。

だから僕は僕の身体を隠す場所も提供できない。

貴方にあげられるものだって多くない。

それこそ身体くらいのものだけど、

それで貴方が満足できるとも思ってないよ。

貴方に利益は何にもないんだよ。

貴方にあげられるものがないのに、

貴方が僕を殺してくれるだなんて、

僕はそんなうまい話があるなんて信じてない。

どうせ嘘を吐いてるんでしょ?

 

彼は、疑ってかかった僕の失礼な発言を、

止めることなく全て聞いてから一呼吸おいて、

胡散臭いほど爽やかな笑顔でこう返した。

 

ふふ、信用できないですか。

そうですよねえ、私、胡散臭いでしょうねえ。

でも、貴方が死にたいとずっと思っているように、

私も誰かを殺したいと、ずっと思っていたんです。

ねえ、貴方はどんな死に方がいいですか?

痛い方がいい?それとも眠るように死にたい?

痛い方がいいなら、それは刺し傷?

それとも殴られたりしたいですか?

それとも首を絞めたりするのがいいですか?

その場合はロープとかで絞められるのと、

体温のある手で絞めらるの、どっちがいいですか?

それとも薬物がお好みですか?

薬物なら経口?それとも注射?

ふふ、血管に空気を入れるのもいいですかねえ。

ね、どんな死に方がお望みですか?

私はどんな殺し方もしてみたいので、

可能な限りお好みに応えますよ。

 

彼は笑顔のままそう言い切った。

それを聞いて、こいつは狂ってる。

頭がおかしい。

だけど、かえって好都合かもしれない。

僕はそう思った。

彼なら本当に僕を殺してくれるかもしれない。

彼は人を、この場合僕を殺すことに、

期待や楽しみを抱いてる。

退廃的な理由で人を殺そうとしているのではなく、

ただ純粋に、娯楽や快楽として殺そうとしている。

彼の顔に張り付いて揺らがない笑みが、

それを証明している気がした。

だから僕は言った。

 

僕の期待に可能な限り答えてくれるんだよね?

本当に?本当に僕の希望を聞いてくれるの?

僕は殺してくれるなら貴方でもいいよ。

正直殺してくれるなら誰でもよかったんだ。

でも貴方は、今僕が話を聞いた限りとても好み。

僕はね、首を絞めて殺されたい。

出来ることなら身体を重ねてる最中がいいけど、

貴方は僕を抱くことができる?

僕の身体に興奮できる?

僕は貴方になら興奮できると思う。

貴方が僕に興奮できるなら、身体を重ねよう。

ある程度互いに行為を楽しんでから、

貴方はその両の手で、僕の首を絞めて。

そしたら僕は貴方の陰茎を締め付けるだろうし、

貴方は僕の首を絞めながら行為を続ければ、

刺激的だと思うよ。

そして僕が死ぬ前、死ぬ時、死んだ後、

その全てのタイミングで、

恐れや後悔、罪悪感なんて抱いてほしくない。

僕が貴方に抱いて欲しいのは、

僕という一人の人間を殺したことによる快感だけ。

できる?

 

僕が希望の死に様を言い連ねる間も、

彼は笑みを揺らがせることなく、

むしろ彼はその笑みをゆっくりと深めていった。

僕が希望を言い切って、息を吐いたとき、

彼はうっそりと微笑んで、

そして両の手を軽く持ちあげて言った。

 

ええ、できますよ。

私は貴方の身体に興奮できますし、

貴方を殺すというシチュエーションに、

何より興奮できるでしょう。

だから私と貴方が身体を重ねることに、

問題は何一つとしてありません。

今までの人生で一番の性体験ができそうですね。

ふふ、今から興奮してきちゃいました。

私のこの手で貴方の首を絞めて、

死の間際、痙攣する貴方に私の欲を打ちつけて。

きっと、とても気持ちいいでしょうねえ。

ええ、貴方もお察しでしょうけれど。

私は貴方を殺すことについて、

罪悪感なんて欠片も感じません。

だって、私がしたくてするんですから。

恐怖は快感に書き換えられて、後悔したとすれ、

きっとそれもまた私を興奮させるでしょう。

貴方の首を絞める両手の感触を、

酸素を求めて苦しみに喘ぐ貴方の表情を、

痙攣し私を締め付ける貴方の身体を、

命を失って光を無くした貴方の瞳を、

弛緩した貴方の肉体を思い出して、

幾度となく自慰すらするかもしれません。

どうでしょう?

私はご期待に沿えそうですか?

 

彼だ。

『彼でもいい』なんかじゃない。

僕が求めていたのは彼だ。

そう思った。

彼からは純粋な狂気と理性の香りがするし、

何より利害が一致している。

彼にしよう。

そう思った。

 

そこからは早かった。

僕は彼の男性らしい骨張った手を取って、

寂れたラブホテルに入った。

最後の慰めとばかりにシャワーを浴びて、

身体を綺麗にしてから、彼と肌を合わせる。

彼の手が僕の肌を這い、追い詰めていく。

僕も彼の男性然りとした身体に手を這わせ、

彼を昂らせていく。

性欲とか快楽とか、そういったものは単純で、

簡単に僕らは興奮して昂った。

彼が僕の中に入ってくる。

最後なんだ、ゴムなんていらない。

どうせ僕は死んでしまうんだから。

彼は恍惚とした表情で興奮で少し頬を赤らめて、

だけどやっぱり微笑んでいた。

それはあの、最初の胡散臭い笑顔だった。

 

彼は腰を打ち付けながら、

ゆっくりと僕の首に手を這わせていく。

ゴツゴツとした温かな両の手が僕の首を包む。

そして、じわじわと力が加わっていく。

頭に血が回らなくなる感覚がして、

キーンと高い音の耳鳴りがする。

身体は勝手に酸素を求めて喘いで、

咳き込んで、喉が痛くなる。

じわじわ、じわじわと彼が力を強める。

意識が朦朧とする。

すごく気持ちがいい。

彼は腰を打ち付けながら、

まるでちょっとしたいたずらでもするように、

楽しそうな目で僕を見ながら、

時折ふっと首を絞める力を緩める。

緩まった瞬間僕の身体は浅ましく酸素を求めて、

大きく呼吸をする。

彼はそれをうっそりと笑んで眺めてから、

また力を強くしていく。

何度それが繰り返されただろう。

行為の初めは言葉少なだった彼が、

しきりに何か言っている気がする。

気持ちいい?期待通り?そろそろいいかな?

まだ待った方が気持ちいいかな?

でももう我慢できないかもしれないな。

そんな風に聞こえるけれど、

耳鳴りがうるさくてきちんと聞き取れない。

だから僕は絞められた喉から零れる喘ぎにのせて、

気持ちいいよ、いいよ、もう、シテいいよ、と、

ほとんど吐息のような掠れた声で彼に言った。

興奮している彼に言葉が届いただろうか、

とどこかぼんやりと思う。

ぐ、と首を絞める力が急に強くなって、

ああ、ちゃんと届いたんだ、と思った。

さっきまでは苦しかったけど、もう苦しくない。

身体が熱い。

だけど首にかかる手はもっと熱い。

それを心地いいと思いながら、

僕の意識は薄れていき、戻らなかった。

 

彼は僕の身体を堪能していた。

絞めるたびに自らを締め付ける感触を、

空気を求め喘ぎ咳き込む微かな声を、

そして力を無くし弛緩しきった肉体を。

弛緩しきった肉体からずるりと陰茎を引き抜いて、

そこから流れ出る白濁を、

うっそりと微笑みながら眺める。

そして考える。

さぁ、この後どうしましょうかね、と。

 

とても興奮しましたし、まだ冷めやらないですし、

あと何回かしちゃってもいいですかね?

いいですよね?

『シテ、いいよ』って仰ってましたし。

私が満足するまでさせていただいても、

きっと構わないでしょう。

 

そう結論づけて、

少しずつ冷たくなっていく肉体を抱え直す。

そしてまた自らの陰茎を埋め、腰を打ちつける。

肉体はもう何の反応もしない。

それがかえって彼を興奮させる。

つい先程まで熱を帯びて、

酸素を求めて苦しみ喘ぎ微かな声をあげて、

時に痙攣して締め付けてきた肉体が、

今は何の反応も返さない。

彼の陰茎を埋めているところは、

まだかろうじて彼の体温で暖かいけれど、

腹部や胸、顔に手を這わせても、

そこに体温はない。

その落差が、彼を興奮させる。

さっきまで生きていたのに。

私が殺した。

そう、私が殺したんですよ。

そう思うと酷く興奮して、

何の反応も返さない肉体に、

より激しく腰を打ち付けてしまう。

 

何度目かの行為を終えて、

すっかり冷たくなった肉体の横に、

彼は熱い身体を横たえる。

そしてまた考える。

さあ、これからどうしましょうかねぇ。

遺体の処理って案外大変なんですよねえ。

今回はゴムも使いませんでしたし、

興奮して汗もたくさんかきましたからね、

体液なんかもばっちりでしょうし、

そのまま遺棄なんて訳にもいきませんねえ

ふふ、どうせなら腐り始めるまで、

そばにいてもらいましょうかねえ

そしたらそれまでは思い出して、

何度だって気持ちよくなれますし。

そしてまたあの胡散臭い笑顔を浮かべて、

冷たくなった頬を撫でる。

 

さて、そうと決めたら、硬直が始まる前に、

トランクにでも詰めちゃいますか。

硬くなっちゃうと大変ですからねえ。

ふふ、今のうちに瞼も閉じておきましょうね。

表情も少し柔らかくして

ええ、これでいいでしょう。

 

そう言って彼は初めて胡散臭くない、

至極普通の笑顔を浮かべ、鼻歌を歌いながら、

肉体をトランクに詰め込む。

その肉体が腐り始めるまで、楽しむために。

 

なーんてことがあったらいいのにな、

っていう妄想です。

残念でした。